うつ病の症状とは/心と身体に表れる10の症状
うつ病は、精神的にも身体的にも様々な症状が現れますが、初期の軽い段階では、「体調が一時的に悪いだけだ」「甘えているだけだ」と見過ごしてしまいがちです。
加えて、うつ病になりやすい人というのは責任感が強く自分に厳しい人が多いため、「自分がダメな人間だからだ」「頑張りが足りない」などと自分を叱咤し、つらくても走り続ける傾向があります。
また、家族や同僚から見て、いつもと比べて様子がおかしいと感じても、それがうつ病によるものかの判断は難しいことも多いようです。
実際に私も、「これはうつ病なのか、ただの甘えではないのか」と懐疑的になったご本人やその身近な人から、ご相談をお受けすることがあります。
うつ病の症状を見逃し、ストレスや体の不調をそのまま放置していると、うつ病の進行に伴って症状に対する感覚も段々鈍くなり、認識する力そのものが低下していきます。結果的に、自覚できないままどんどん悪化してしまいます。
したがって、心と身体の状態をよく観察し、症状が軽い段階でなんらかの対処をすることはとても重要です。
うつ病の症状にはどのように表れるか、 うつ病と『甘え』『怠け』との違いは何か等、ご説明させていただきます。 また、うつ病の人を見守る立場の方々にとっても、本人の言動に振り回されず冷静に対処するために、その症状をよく理解するご参考にしていただければ幸いです。
目次
1.うつ病の症状はどのように表れるか
誰しも、仕事でミスをしたり、人間関係でトラブルがあれば気分が落ち込むものですが、大抵はしばらくすると元気になります。一方、うつは以下のような症状が2週間以上、ほぼ毎日続き、日常生活に支障を来します。
1-1.強い抑うつ気分
うつ病の特徴的な症状です。憂うつで、重苦しい気分が続きます。このような状態を「抑うつ」といいます。
気分が晴れず、何もやる気が起きません。ため息が目立ったり、表情が暗く、落ち込んだ様子になります。また、ネガティブな発言も多くなるため、周囲の人も気づきやすいのですが、元々の性格だと誤解されることもあります。
抑うつのために、イライラしたり、怒りっぽくなることもあります。
こうした症状は午前中に特に顕著に見られ、午後から夕方にかけて回復していくことが多いとされています(『日内変動』と言います)。
1-2.興味や喜びの喪失
「強い抑うつ気分」と並んで、うつ病の症状において大きな特徴となるものです。
周りの物事や活動に、興味や喜びを感じられなくなります。
行動力が著しく低下し、これまで楽しんできた趣味やスポーツ、旅行や外出なども、やる気が起きなくなってしまいます。意欲を持って取り組んでいた仕事にも手がつかないといったことも見られます。
人と会って話すことも面倒になります。おしゃれや服装にも興味が湧かず、身だしなみに気を配らなくなり、一気に社交性が乏しくなります。異性への関心や、性的な欲求も低下します。
元々が活動的であった人であれば、周囲からは人が変わってしまったように見えることもあるでしょう。
1-3.食欲の減退または増加
一般的に、うつ病では食欲が低下することが多く、そのために体重が1ヶ月で数キロも現象してしまうこともあります。
特に朝食はまったく食べる気が起きなくなり、好物にも興味を示さず、「何を食べてもおいしくない」という状態が続きます。
そのため、睡眠不足と並んで、体力を維持できずに回復を妨げる要因となっている側面もあるでしょう。
反対に、食欲が増加して、甘いものや炭水化物などの特定の食べ物を過食してしまうケースもよく見られます。
1-4.睡眠障害(不眠または過眠)
うつ病にかかった多くの人に、不眠の症状が現れます。
疲れていても寝つきが悪くなり、やっと寝付いても眠りが浅く、重く苦しい夢ばかりみて夜中に何度も目を覚ましたり、早朝に起きてしまったりします。そのため、熟睡感がなく、体も非常にだるくなるため、起き上がれずに布団の中で悶々とし、自分を責め続けることも多いのです。
睡眠不足が原因で、日中に集中力が欠如して仕事でミスをしたり、そのために落ち込んだりイライラするなど、他の精神的症状にも多大な影響を及ぼします。 食欲の低下と並んで、体力を維持できずに回復を妨げる要因となっている側面もあります。
反対に、夜の睡眠が極端に長くなったり、日中も寝てばかりいるといった過眠症状が現れることもあります。
1-5.精神運動の障害(強い焦燥感・運動の制止)
動作が鈍くなったり、話し方がのろのろと遅くなったり、口数が極端に少なくなったりします(精神運動の制止といいます)。
今までてきぱきと問題なくこなしていた家事や仕事、些細な作業にも時間がかかるようになり、動きも緩慢になります。周囲の人も変化に気づきやすいのですが、怠惰な態度の現れだと誤解されることもあります。
反対に、強い焦燥感に駆られてじっとしていられず、そわそわとして落ち着きなく体を動かしたり、ウロウロと歩き回ったりするようになることもあります。貧乏ゆすりが止まらなくなる、早口でせき立てられるように話し続ける、といったことが見られる場合もあります。
1-6.易疲労性、気力の減退
ちょっとしたことでもすぐに疲れてしまい、休んでも疲れが取れません。体が非常に重く、強い倦怠感を感じるようになります。そのため、何もやる気が起きず、それまでは難なくこなしていた家事や仕事も滞りがちになり、周囲には怠けているように見えてしまうこともあります。
本人は、「何とかしなければ」と気持ちは焦るのですが、体も思うように動かず、気力も低下しているので、何とか取り組んでも長続きしません。そんな自分を責め、ますます症状が悪化することもあります。
1-7.強い罪責感
自分は価値の無い、何の取り柄もない人間だと思い込んだり、根拠もなく自分を過剰に責めるようになります。
自分の些細なミスを過大評価して「取り返しのつかないことをしてしまった」「自分のせいで皆が迷惑している」と感じたり、不況で会社の業績が落ちるなど、自分とは関係のないことでも「自分の責任だ」と思い込み、そこから抜け出すことができなくなります。
自分の能力を過小評価しているので、新しい仕事や、責任のあることを任されたりすると「自分にはできないのに…」と負担に感じます。
たとえ成果を挙げたとしても「大したことではない」「誰でもできること」として、自分自身にプラスの評価を与えません。
更には、人から不当な扱いを受けた場合でさえ「こうなったのは自分が悪いせいだ」と結論づけます。 このような無価値感、罪責感が高じると「自分はこの世からいなくなった方が良い」と考え、自殺念慮へ発展する可能性もあります。
1-8.思考力・集中力の低下
注意が散漫になって集中力が低下したり、思考が働かなくなることがあります。そのために仕事や家事が以前のようにこなせなくなったり、学校の成績が落ちたりするようになります。
また、決断力が低下して、大したことでなくてもあれこれ考えて何も決められなくなります。
初期の頃には、「アイディアが浮かばない」「考えがまとまらない」「物忘れがある」といったことで現れますが、症状が進んでくると、今まで難なくこなしていたこともできなくなったり、相手の話していることが理解できなくなってきます。
気力の低下も伴って、実際に仕事の能率も落ちてミスをしたりもするので、「自分はダメな人間だ」「皆に迷惑をかけている」という無価値感、罪責感が生じ、ますます症状が悪化することもあります。
一般に、結婚、退職、転職、離婚、離別といった大きな決断はうつ病のときにやらない方がよいとされます。環境の急激な変化がうつ病を悪化させるという理由もありますが、このように思考力や決断力が低下している状態のため、適切な判断が下せないという理由もあるのです。
1-9.自殺念慮
気持ちが沈み、あまりにもつらいため「死んだほうがましだ」「この世から消えてしまいたい」と考えるようになります。 この『自殺念慮』は、うつ病の症状として顕著に見られるものであり、ほとんどの人が一度は「死にたい」と考えるようです。
「死にたい」という考えが出てきてしまったら、「これは病気のせいであり、本心ではないのだ」と自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせることが肝心です。
家族や友人など周りの人に「死にたい・・・」「楽になりたい・・・」と漏らすこともあるでしょう。」その場合、もし周りの人から「死んではいけない」と説教されたり、はぐらかされたりすると、「説教されるようなことを言ってしまうダメな人間だ」と自分を責めたり、「理解してもらえない」と失望してしまい、症状に拍車をかける可能性もあります。
一般に、うつ病の症状が重いときには、「死にたい」と思っても実行に移す気力も行動力もありません。しかし、少し症状が回復すると、考えが浮かべばすぐに実行に移す危険があります。周りの人は、外見上元気になったからといって安心せず、注意して見守ることが大切です。
1-10.その他の身体的症状
その他、うつ病に伴う身体症状として、次が挙げられます:
全身の倦怠感 頭痛 めまい 吐き気 動悸 息苦しさ 肩こり 立ちくらみ 耳鳴り 難聴 背中の痛み 胃痛 便秘 下痢 風邪をひきやすく治りにくい 等
ひとつの症状にとどまらず、いくつかを併発することもあり、また次々と変わっていくこともあります。 初期の段階では、精神的症状の前に身体的症状のみが現れることもあるため、内科などを受診し、うつ病と診断されないことがよくあります。
身体症状があるのに検査で異常がない場合は、うつ病の可能性を考える必要があるでしょう。
2.うつ病のサインを見逃さないために
2-1.本人が自覚できるサイン
誰しも、仕事でミスをしたり、人間関係でトラブルがあれば気分が落ち込むものですが、大抵はしばらくすると元気になります。
一方、うつ病は以下のような状態が2週間以上、ほぼ毎日続き、日常生活に支障を来します。
・憂うつな気分が続く
・趣味や好きなものに興味が持てなくなる
・朝、起きられなくなる。
・特に午前中、体がだるく、活発に動けない。
・思考力や集中力が低下し、仕事や家事で小さなミスが多くなる
・思い通りに仕事や家事を片付けられず、滞る
・寝つきが悪くなる。夜中や明け方に目が覚める
・食欲がなくなる もしくは偏った食べ物(菓子パン等)を過食する
(←さらに詳しいうつ病度チェックはこちら)
また、大きなストレスを引き起こしやすい要因となるような出来事が、少なくとも1年半以内にあったかどうかも、判断する目安になります。
例を挙げますと、親近者との死別や離別、離婚、失業、職場でのトラブル、家庭内のトラブル、育児の負担、身体的な病気、睡眠不足(特に5時間未満の睡眠は要注意) などがあります。
必ずしもつらいことや悲しいことだけではなく、結婚、出産、入社、昇進、栄転、新居への引越しなど、一見喜ばしいことでもうつ病を発症することがあります。それまでの生活リズムが崩れることすべてが、ストレスとなりうるためです。
2-2.『甘え』『怠け』との違い
うつ病になりやすい人というのは、責任感が強く真面目でがんばりやな人が多いので、普段から『甘え』『怠け』に対して、自分を厳しく律しているものです。
だからこそ、うつ病の症状に気がついても「これはうつ病ではなく、単に甘えているだけだ」と自分を更に叱咤します。すでにエネルギーは枯渇寸前なのにも関わらず、同じスピードで走り続けることになってしまいます。
うつ病と、『甘え』『怠け』の違いは、 「それをしないことで(あるいはやってしまうことで)、どんなことが待ち受けているのか、事の重大さを充分にわかっていても、どうしてもできない」 ということだと言えます。
今日、仕事を休むことで、どんなに周りに迷惑をかけるのか、それが自分の将来にどんな意味を持つのか…といったことが、ありありとイメージできるのに、それでも布団から起き上がれない。動けない。 悔しい。つらい。なんて私はダメな人間なんだろう。。
そんな葛藤があれば、うつ病の初期症状が出ていると言えるかもしれません。
2-3.周囲の人たちが気づけるサイン
うつ病の場合、客観的に周囲の人々からも目に見えるサインがいくつか現れます。
主に、以下のようなものがあります。
・遅刻・欠勤が目立ってきた
・ボーッとしていることが多い
・身だしなみに気をつけなくなってきた
・仕事の能率が落ちている(職場)
・家事が滞っている(家庭)
・本人が好きなはずの趣味の話などに興味を示さない
それでも、本人が、家族や職場に迷惑をかけたくないという思いから、むしろ普段より明るく振舞おうとすることもあるため、サインが出ていても気づけないことがあります。
仕事の遅れを気に病んだ本人が、遅くまで残業したり休日出勤していると、周囲は「そんなに頑張れるほど元気なのか」と安心することもあるようです。
自分や周囲の人達同士が、お互いに「なんだかいつもと違う?…」と気づけるよう、普段から挨拶を交わしたり、接点を持つようにすることが、うつ病の早期発見と予防に役立つでしょう。
とは言え、サインが見えたからといって、唐突に「あなた、病気じゃない?」「お前、病院行った方がいいぞ」といったような決めつけや直接的な表現を投げかけることは、本人の自信を失わせ、追い詰めることになるかもしれません。
本人も、思い通りにならない自分に気が付いているはずです。
本人の意思を尊重する姿勢を崩さず、 「なんだか眠れていないように見えるのだけど、ゆっくり休めていないんじゃないかと心配しているの」 「君にしては遅刻が続くのはとても珍しいね。私が少し負荷をかけすぎてしまって疲れが溜まっているのかと気になっているんだ」 と、まずは“じっくりと耳を傾ける姿勢”を本人に示してあげましょう。
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