こんなこともうつ病の原因に?人生に潜むストレス、着目するのは『変化』
うつ病が発症する原因は単一ではなく、人間関係のトラブルや仕事上の負荷、もともとの性格や考え方の傾向や身体の不調など、さまざまな要因が複合的に絡み合って発症します。
誰しも、職場や家庭でトラブルを抱えれば憂鬱な気持ちになって落ち込むのは自然なことですし、慣れない育児や、充分な睡眠が確保できない状態であれば、体の負担が徐々に心にまで影響することもあるでしょう。
それに加えて、完璧主義で成果にこだわるあまりに現状に満足せず自分を追い込みすぎる傾向がある人や、「“~しなければならない”、“~であるべき”、という縛りが厳しい」「他人の目や評価を過度に気にする」といった考え方の傾向がある人は要注意と言えます。
そして、上記以外でも、ストレスを引き起こしやすい環境要因があります。 親近者との死別や離別などはもちろん大きなストレスとなりますが、一見、喜ばしいことや、気持ちが浮き立つようなイベントでも、隠れたストレスの要因となりうるのです。
「思い通りに行動できない」「力を発揮できない」「気分が落ち込む」…と抑うつ状態になったとき、自分の生活でどんな出来事があったかを振り返り、「今はこういうストレスがかかっている状態なんだ」と客観的に意識しておくことは、必要以上に自分を責める“堂々巡り”にストップをかけ、早期の対処が可能になります。
日常に潜むストレスの要因にはどのようなものがあるか、またそれはなぜストレスとなってしまうのかを、ご紹介いたします。
目次
1.ストレスとなる出来事(ライフイベント)と、その度合いは
社会生理学者ホームズと内科医レイ(HolmesとRahe)は、人生における様々な出来事(ライフイベント)に対し、「このような経験をしたのち、元気を取り戻して再び社会に溶け込む(再適応)には、どのくらいの時間とエネルギーがかかるのか?」を点数化する研究を行いました。
現在、その研究結果は、社会的ストレス評価法として用いられています。
順位 | 出来事 | ストレス度(点数) |
---|---|---|
1 | 配偶者の死 | 100 |
2 | 離婚 | 73 |
3 | 夫婦別居 | 65 |
4 | 刑務所への収容 | 63 |
〃 | 近親者の死亡 | 63 |
6 | 本人の大きなケガや病気 | 53 |
7 | 結婚 | 50 |
8 | 失業 | 47 |
9 | 夫婦の和解 | 45 |
〃 | 退職・引退 | 45 |
11 | 家族の健康の変化 | 44 |
12 | 妊娠 | 40 |
13 | 性生活の困難 | 39 |
〃 | 新しい家族メンバーの加入 | 39 |
〃 | 合併・組織変更など勤務先の大きな変化 | 39 |
16 | 家計上の変化 | 38 |
17 | 親友の死 | 37 |
18 | 配置転換・転勤 | 36 |
19 | 夫婦げんかの回数の変化 | 35 |
20 | 住宅ローンが多く残っている | 31 |
21 | 借金やローンの抵当流れ | 30 |
22 | 昇進・降格・移動 | 29 |
〃 | 子女の結婚 | 29 |
〃 | 親戚関係でのトラブル | 29 |
25 | 個人的な成功 | 28 |
26 | 配偶者の就職・退職 | 26 |
27 | 本人の進学・卒業 | 26 |
28 | 生活環境の変化 | 25 |
29 | 個人的習慣の変更 | 24 |
30 | 上司とのトラブル | 23 |
31 | 労働時間や労働条件の変化 | 20 |
〃 | 転居 | 20 |
〃 | 転校 | 20 |
34 | レクリエーションの変化 | 19 |
〃 | 社会活動の変化 | 19 |
36 | 宗教活動の変化 | 18 |
37 | 住宅ローンが少し残っている | 17 |
38 | 睡眠習慣の変化 | 16 |
39 | 家族の集まる回数の変化 | 15 |
〃 | 食習慣の変化 | 15 |
41 | 長期休暇 | 13 |
42 | クリスマス | 12 |
43 | 軽度な法律違反 | 11 |
表1)社会再適応評価尺度(Holmes&Rahe 1967)
過去1年間で、ストレス度の点数の合計が、 150~199点で40%、200~299点で50%、300点以上で80%の人が、2年以内にストレスに関連した何らかの疾患を発症する可能性が高いとされています。
たとえばある女性が、結婚(50点)して新居に引っ越し(20点)をし、それに伴って退職(45点)をしたような場合は合計115点ですが、これに加えて義父母と同居(39点)するようになった場合は、154点となり、40%の確率で何らかの疾患を発症する、という見方になります。
1-1.配偶者(パートナー)との死別・離別、家族の健康の変化などは高い値
配偶者(パートナー)と死に別れるということは、人生で起きる出来事の中でも群を抜いてストレスが大きいということになります(100点)。 また、『親友の死』も37点と高い値となっています。
身近な人が亡くなると、いろいろ整理したり、故人のいない生活に慣れることに慌ただしくなりがちですが、故人を悼む時間を充分にとることは非常に重要です。
「なぜ自分がこのように悲しい目に遭わなくてはならないのか」と怒りを覚えたり、「自分にもっと何かできたのではないか」と罪悪感を抱くこともよくあります。そういった感情をないがしろにせず、時間をかけてでもじっくりと故人の死を受け入れていく過程がとても大切となります。
これまでの生活スタイルを変えなくてはならなかったり、自分自身の価値観を試されるときでもあります。相手からの非難に対抗しなくてはならない場面もあるかもしれません。
あらゆるストレスの克服にも、精神疾患の改善にも、安心できる環境に身を置くことは絶対に必要な条件です。したがって、家庭に安息を得られないことによって、いつもよりたくさんのエネルギーが消費されていることを見逃さず、そんな自分を認めてあげることが重要です。
『家族の健康の変化』も44点と高い、上位となっています。
家族が病気やケガなどを負ったとき、本人の苦痛やストレスを軽くすることに心を配ろうとするのは、家族のことですので自然なことです。 しかし、介護を中心に担うメンバーはもちろんのこと、それ以外のメンバーも、心と体に大きな負担を抱えているということを知っておいていただきたいと思います。
それは、うつ病のご家族がいらっしゃる場合も同様です。 (⇒ご家族・パートナーの方へ)
1-2.一見、喜ばしい、楽しいとされるイベントによるストレスも見逃せない
一般的に、悲しみや苦痛等を伴うものだと見られていないような出来事であっても、隠れたストレスの要因となります。
たとえば、 ・結婚…50点 ・妊娠…40点 ・昇進…29点 (降格と同点) ・子女の結婚…29点 となっています。
「おめでとう」「良かったね」といった言葉をかけられるような出来事ですので、本人もそれ自体がストレスだとは思ってもみないかもしれません。たとえストレスを自覚したとしても、それを周囲に話すことは憚られることもあるでしょう。
2.なぜ、ストレスとなってしまうのか
2-1.生活リズム、環境の変化に適応しなければならない
ではなぜ、「おめでたい」「良かった」と自分も周囲も感じるような出来事まで、ストレスの原因になってしまうのでしょうか。
人間は、“変化”に適応しなければならないような状況になったとき、とても大きなエネルギーを必要とします。
決まりきった日常、決まりきったコミュニケーションは、刺激はないものの、心に安定をもたらします。
そこから逸脱することは、軽く混乱する頭を何とか宥めながら、自分が持つ知識や経験を総動員して対処にあたることになります。 そしてその結果もまた、新たな知識として整理していくわけですが、
「今ので良かったのかな?」「もっとこうすべきだったのでは?」「次からはこうした方がいいかな」
といったような、自分自身の考え方と照らし合わせながらの作業となります。
また、それまでの生活リズムが崩れることで、○○の次は△△といった自分独自の段取りを変えなくてはならなくなり、その調整を強いられるだけでも心は不安定になります。
うつ病を患った人に、転職や離婚、結婚をあまり勧めないのは、症状のために判断力が低下しがちだからという理由もありますが、これらが新たにストレスとなって追い打ちをかける懸念があるためなのです。
2-2.役割の変化に適応する
更に、これまで負っていた“役割”が変化するのも、大きな理由のひとつです。
たとえば、『結婚』であれば、女性は、「一人の独身女性」だったのが、「特定の男性の妻として家庭に入っている女性」という、違った役割を負うことになりますし、『妊娠』であれば、「母親」という役割を意識し始めます。
『昇進』であれば、これまで果たしていたものとは異なる職責を負います。
本人の中身は変わらなくても、周囲から違う行動、振る舞いを要求されることになります。 コミュニケーションをとる相手も変わってくるでしょうし、配慮しなくてはならない範囲も広くなるかもしれません。
このように、“変化”に着目していくと、一見喜ばしいことでも、それに適応するために心にかなりの負担を強いているということが、イメージしていただけるのではないでしょうか。
3.変化の渦中にいる自分を認め、労わること
肉親を亡くすなど、それ自体が非常に大きなストレスになることを除けば、何かの出来事でストレスを覚えたとしても、それ単一で疾患を発症することは少ないでしょう。
しかし、それに加えて人間関係がうまくいかないと感じていたり、仕事でかなり負荷がかかって心身ともに疲労しているような場合には、その出来事によるストレスが乗ることで限界点に達することは充分ありえます。
思い通りにならなくて、落ち込んだ気分がなかなか浮き上がってこないような場合には、「私はどうしてしまったんだろう…」と不安に感じ、悪循環に陥りがちです。自分に失望することもあるかもしれません。
しかし、
・「こういうことを経験したから、ストレスになっているのかもしれない」
・「○○という役割から△△という役割に変化して、適応しようとがんばっているからだ」
と客観的に自分を観察することによって、「落ち込むのも自然なことだ」と認めることができれば、必要以上に自分の状態に不安を感じることがなくなります。
もし、自分の周りで表1のストレス評価尺度の項目にあるような出来事を経験した人がいたら、「○○で大変じゃない?」とさりげなく声をかけて労わることで、当人も「そうなの、実は…」と話しやすくなるかもしれませんね。
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