私はアダルトチルドレン?と思ったら…その傾向と克服への道筋とは
「私はアダルトチルドレンではないかと思って…」そう話してくださる方は、実は少なくありません。
人間関係でのつまずきが、いつも同じようなパターンで繰り返されていたり、日々漠然とした空虚感や不安、自分を否定したくなるような気持ちを抱いていたりするような場合、「子供の頃に育った環境に原因があるんじゃないだろうか」と思い至ることが多いようです。
そしてご自分のことを、まるで何かの病気であるような、人間的に欠陥があるかのように表現されることもあります。
しかし、それは大きな誤解です。
アダルトチルドレンは病気ではありません。人間的に欠陥があるわけでもありません。 子供の頃に、家族を守るため、自分自身を守るために課してきた厳しいルールが大人になってからも影響を及ぼし続けているために、心が自由を失っている状態のことです。
「過去を振り返っても意味がない」、と言われることもあるでしょう。
「いまさら親のせいにはしたくない」、と思う人もいるでしょう。
しかし、自分を常にせきたてるものは何なのか、自分を不安から解放しないもの何なのか、その正体に向き合うことは、 「大人になった私は、人生を、生き方を、自分で選択していくことができるのだ」 と納得するために、避けて通ることのできない重要なことなのです。
アダルトチルドレンは、性格や考え方にどのような傾向があり、精神的な疾患にどう結びつくのか、そして、アダルトチルドレンであることを克服し、自分の足で自分の人生を歩んでいくための道筋はどのようなものかについて、ご紹介いたします。
1.アダルトチルドレンの特徴
1-1.『機能不全家族』という生育環境
アダルトチルドレンは、大人になりきれない子供のような人であるという解釈が広まったことがありますが、それは本来の意味とは違います。
幼少時代に、子供らしい、素直な欲求に従った“本当の自分”を出すことができず、不安と緊張の中で幼少時代を送った人々が、大人になっても人間関係のトラブルが続いたり、生きづらさを抱えていたりすることがあります。
彼らの生育環境は、『機能不全家族(=家族のメンバーの成長や変化に合わせて柔軟に対応することができず、家族としての必要な働きを果たせる状態にない家族のこと)』であったと考えられ、この機能不全家族で育った人たちのことを指して『アダルトチルドレン(アダルトチャイルド)』と呼ぶようになりました。
子供が精神的・身体的負担を強いられているような家庭では、自分の素直な欲求に従った「本当の自分」を出してしまえば、家族の中での居場所が無くなってしまう、家族か崩壊してしまうという危機を感じて怯え、常に緊張を強いられている状態で幼少時代を送ることになります。
身体的・性的虐待があるような場合は当然のことですが、下記のような様々な精神的負担を強いられるような家庭でも、子供は思い切り遊ぶこと、甘えること、リラックスすることができません。
・両親や祖父母が不仲である
・親の不在が多い、または親の子供に対する関心が薄い
・親の支配、コントロール下に置かれている
・親や兄弟姉妹から「お前はダメだ」というような、尊厳を傷つけられるような言動や、無視されることが日常的にある
・恫喝される(不安になるようなことを言う、大声で怒鳴るなどして脅される)ことがよくある
・兄弟姉妹で常に比較される ・家庭内で起きていることを秘密にするように強要される(家庭内不和や経済的な事柄、家族のメンバーに関すること)
・親が情緒不安定で、物事に対する反応に一貫性がない
・子供に対して過度に期待し、プレッシャーを与える(期待に応えないと失望をあらわにする)
・度を越えた厳しいしつけをされている
・親が過干渉である
・子供を着飾らせる、子供の意に沿わない習い事を強要する
・家族内に、何らかの依存症や精神疾患を抱えたメンバーがいる
ここで注意したいのは、たとえ両親がとても愛情深く良心的で、子供に対して深い関心を寄せていたとしても、子供が何らかの息苦しさ、プレッシャーを強く感じていた場合、その子供にとっては『機能不全家族』であり得たということです。
したがって、「機能不全家族であったこと」と、「親の愛情が薄かったこと」は、決してイコールではありません。
1-2.5つの役割で見る考え方の傾向
「本当の自分」を出すことに危機を感じた子供は、周囲に合わせた“役割”を演じることで、その危機を逃れようとします。
そして、子供の頃に、家族や自分を守るために演じていた役割を、大人になってからも演じ続けることになります。アダルトチルドレンの生きづらさは、ここに大きな原因があります。
なぜ演じ続けなければならないかというと、そうしなければ、
・周囲に受け入れてもらえないかもしれない
・大切な人に見捨てられるかもしれない
・自分の価値がなくなるかもしれない
といったような不安が根っこにあるからです。
ここでは、特徴的な“5つの役割”と、大人になってどのような考え方の傾向となって表れるかをご紹介していきます。
(これらの役割のうち、ひとつだけではなく、複数を同時に演じている場合も多いと言われています。)
①ヒーロー/スーパーチャイルド
いわゆる「いい子」です。品行方正で成績も優秀、何でも完璧にこなそうとする頑張り屋です。
親の期待に応えることこそが自分の価値であると感じる傾向があります。
自分に対する期待と称賛とが家庭円満に繋がっていると無意識に感じるため、努力を少しでも怠ることができません。 目標を達成できなかった場合には、激しい自己嫌悪に陥ることもあります。
正義感や「こうあるべき」が強いため、物事を遂行する能力も高く周囲からの信頼も得られやすい一方で、考え方に融通が効かず、行き詰まることも多いタイプです。
【考え方の傾向】
・常に成果を出し続けなければならない
・すべてにおいて完璧でなければならない
②ケアテイカー(お世話やき)
家の中の問題を何とか解決しようと、自分のことを考えずに家族のために一生懸命になります。親の面倒を見たり、愚痴を聴いてあげることで親を支えているという意識を強く持っています。弟妹の世話をしていることもあります。
家族以外でも、困っている誰かの役に立つことで安心と満足を覚え、「人の役に立つ」ことこそが自分の存在意義のように感じています。何か問題を抱えている人を放っておけません。
一方で、自分が何をしたいのか、どう感じているのかがわからず、自分を失っている状態です。
【考え方の傾向】
・誰かに必要とされなければ、自分の価値はない
・自分を犠牲にしてでも、相手の期待に応えるべきだ
③スケープ・ゴート(問題児)
病気になったり、問題を起こしたりすることで、体を張って家族を繋ぎとめる“いけにえ”となります。 自分が病気になったり、怪我を負ったりすることで、家族の関心を自分に集中させ、家庭内の問題を鎮静化させる役割を無意識のうちに負っています。
また、非行に走ったり問題を起こしたりして、「家族の問題はこの子が原因だ(他には何も問題はない)」と内外に思わせたり、「この子の問題を何とかしなければ」と家族の団結を呼び起こすことで、家族の崩壊を防いでいます。
【考え方の傾向】
・相手を困らせることによってしか、関心を得ることはできない
・自分は無力である
④ピエロ(お調子者)
家庭内の不穏な雰囲気を察して、敢えて陽気に振る舞ってその場を和ませようとします。おかしなこと、馬鹿にされるようなことをして家族の関心を引き、犠牲者が出ないように気を配っています。周囲の負の感情に非常に敏感です。
表面的には家族にかわいがられ、マスコット的存在になりますが、「寂しい」「悲しい」といった感情を表すことができません。また、常にその場に合わせた感情表現をするので、本当の自分の感情が分からない状態です。
【考え方の傾向】
・不快な気持ちや怒りを表現してはならない
・相手を悲しませたり、怒らせたりするようなことは極力避けるべきだ
⑤ロスト・ワン(いない子、忘れられた子)
家族のメンバーから存在を否定されるようなことを言われたり、自分の言動によって感情的に怒りをぶつけられるようなことが日常的にあった場合、自己の存在そのものを家族の視線から遠ざけることで身を守ろうとします。 口数も非常に少なく、表情にも乏しく、まるでそこにいないかのように存在感を消しています。
「おとなしくて、自己主張のない子」と家族や周囲から思われていますが、強い抑圧状態にあることも多いのがこのケースです。
【考え方の傾向】
・感じたことをそのまま言葉に出してはいけない
・自分に関わる人の多くは、自分に好意を持っていない
1-3.アダルトチルドレンに共通した傾向と、『共依存』
その他、アダルトチルドレンに共通する傾向として挙げられるのは、
・全か無か思考…0か100か、白か黒かといった、極端に偏った解釈(二極化思考)
・思い込みの強さ…「~に違いない」と、自分の解釈を疑わない
・自己肯定感の低さ…常に自信がなく、他人からの評価を過度に気にする
などがあります。
また、陥りやすい特徴的な問題として「共依存になりやすい」ということがあります。
アダルトチルドレンは、自尊感情が低い傾向にあり、「ありのままの自分を受け入れてもらえないのではないか」「相手から見捨てられるのではないか」という不安を漠然と抱えています。
自分自身に対して“OK”を出せないのです。
したがって、他人から“OK”をもらおうとして、依存したり他人の評価をよりどころにしたりします。
アルコール依存やギャンブル依存といった問題を抱えている人に対して、過剰な干渉やお世話をするなどして相手をコントロールしようとしたり、
相手から暴力を振るわれるなど理不尽な目に遭っても耐え忍び、「あの人には私しかいない」と自己の価値を見出したりする、”共依存”に陥りやすいのです。
※共依存に関しては、別のコラムにてまた詳しくお伝えしたいと思います。
1-4.精神疾患、障害としての表れ
アダルトチルドレンのすべての人ではもちろんありませんが、その考え方の傾向が強く表れ、かつ何らかの強いストレス下にあったような場合、精神疾患や障害の土台となることも多いようです。
主なものでは、
うつ病、不安症、境界性パーソナリティー障害のようなパーソナリティー(人格)障害、対人恐怖、リストカットをはじめとする自傷行為、摂食障害、ひきこもり、各種依存症などの症状や問題などが挙げられます。
中でも依存症は特に多く見られ、アルコール依存、薬物依存の他にも、仕事、買い物、ギャンブル、異性、セックスなどにも依存することがあります。
2.克服への道筋
2-1.『自分』を知ること
湧き上がる不安や怒り、焦燥感。
これらの感情がコントロールできなくなるのは、どんなときでしょうか。
友人に夜中でもメールやLINEを何度も送ったり、恋人に自分への愛情を試すようなことを言ってしまうようなとき、どんな感情を抱いているでしょうか。
アダルトチルドレンの方たちの中では、当たり前に繰り返されてきた、感情と行動。
これらは、緊張感に満ちた子供時代を生きる中で、両親から、あるいはその環境そのものから押し付けられてきた暗黙のルールが、「こうでなければならない」「自分はこういう人間だ」という考え方に形を変えて、自分自身をがんじがらめに縛っている結果なのです。
今まで、「これが自分の強みだ。長所だ」と思っているものに囚われていることもあります。
例えば、「困っている人に親身になって、面倒を見てくれる人」と周囲から評価され、自分でもそれが長所であると自覚している場合、「人の役に立てて嬉しい」という気持ちであれば健全と言えます。
しかし、「人の面倒を見て必要とされることだけが生きがいであり、そうでなければ自分の存在価値はない」という考えから生じた不安に衝き動かされた行動であれば、自分の限界を超えて相手に尽くして疲弊してしまうことにも繋がります。
自分の感情や行動が、どんな考え方に縛られているのかを知ること。 そしてその考え方を、より柔軟で健全なものへと弛めていくことが、生きづらさや、人間関係での悩みの改善に繋がります。
2-2.『親』を知ること
子供にとって親は絶対的な存在であり、親に自分の存在を受け入れてもらえないということは、世界の崩壊とも等しい恐怖です。
そのような恐怖を避けるために、自分の本当の気持ちを隠し、親の表情を必死で読み、親の望むような役割を精一杯こなしてきたのです。
大人になった今、彼らの振る舞いを冷静に判断すると、どうしても許し難く、怒りと非難の言葉しか出てこないということもあるかもしれません。自分が抱えている生きづらさは、すべてあなたたちのせいであると。
そして、そんなふうに親を責めてしまう自分自身をも、責めてしまうかもしれません。
親を「心から許す」ことはできなくてもいい。 ひとりの人間として「理解しようとする」ことができれば、それだけでも、親の人生ではなく自分の人生を生きる、大きな大きな一歩となります。
母親は、父親は、自分の考え方に縛られ、子供を苦しめるような振る舞いしかできなかったのかもしれない。
仕事や子育て、義父母や親戚からのプレッシャーで余裕がなく、精神的に不安定であることを取り繕うために必死だったのかもしれない。
満たされない気持ちが、子供への嫉妬という形に歪んでしまったのかもしれない。
アダルトチルドレンの方々は、子供の頃に「親から理不尽な扱いを受けるのは、自分が悪いせいだ」と信じ、それが大人になってからの自己評価にも大きな影響を与えています。
親の側にも、そうせざるを得ない事情があり、弱さがあったのだということを理解しようとすること。それは、「親から子供の頃に受けた扱いのために、自分自身の価値が揺らぐことはないのだ」と信じる大きな助けとなります。
2-3.自分の中の子供を、大人であるあなたが安心させてあげましょう
「親との関係のせいで、私には欠陥があるんです」と表現される方がいらっしゃいます。
決してそうではありません。
他の人が気にも留めないことを気に病んだり、不安を掻き立てられたり、どんなに頑張ってもOKを出せずに、自分自身に厳しい生き方をしているということ。
自分を守るために、あるいは家族の崩壊を防ぐために、偽りの仮面を被り続けてきた。 子供の頃に抱いた様々な感情や欲求が置き去りにされたままになってしまっているため、大人になってからも、様々な場面で警鐘を鳴らし続けているのです。
仕事を完璧にこなせなかったとき。
恋人から連絡が来ないとき。
「私はこうでなければならない」というルールを守り通せないかもしれない
ありのままの私を受け入れてもらえないかもしれない
…こんなふうに、先行きに不安を感じたとき、アダルトチルドレンの人たちの中では警鐘が鳴り響きます。
そしてそれに追われるように、問題を先送りにして避けたり、恋人に夜中に何度も電話したりと、不本意な行動を取ってしまいます。
あなたはもう大人になったのに、様々なことを考え、判断することができるはずなのに、
あなたの中にいる子供のあなたが「怖いよ!」「不安だよ!」と叫んでいるために、冷静さを失ってしまっている状態なのです。
こんなとき、怯えている子供のあなたを、大人であるあなたが慈しみ、安心させてあげましょう。
「今、どんなことが怖い?どんなことが起きるんじゃないかと不安なの?」
それは、子供の頃に不安だったこと、必死で頑張っていたこと、耐えていたこと、
そして守りたかったものと、繋がっているかもしれません。
不安で仕方なかった子供の頃のあなたが、親からかけてもらいたかった言葉。 その言葉を、落ち着いて聴かせてあげましょう。
「怖かったね、不安だったね。 でももう大丈夫だよ。こんなに頑張ってくれてありがとう。
大人である私が何とかするから、安心してね。
大丈夫、大丈夫。」
3.自分の親と同じことを繰り返すのではと不安な方へ
機能不全な家族のもとで育った人たちは、「自分も家庭を持ち、子供を持てば、同じことを繰り返してしまうのではないか」との考えから、家庭を持っても不安を抱きながら過ごしていたり、結婚することや子供を持つことに消極的になってしまったりすることも多くあります。
自分の生き方は自分で選択していくことができるのだと、勇気を持っていいのです。
パートナーを心から尊重し、温かい家庭を築くことができます。子供を愛することができます。
機能不全な家族のもとで学んだコミュニケーションの取り方や考え方、自分自身に対する思い込みは、自分にとって足枷になるものならば、変えていくことができます。
それを選択するのもまた、自分です。
パートナーや周りの人たちとコミュニケーションをとる中で、様々な価値観に触れることも、きっと大きな助けになるでしょう。
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